メキシコ日本芸術文化研究常設セミナー
セミナーの活動
日本とメキシコは、地理、経済、テクノロジーの面からみると、遠くかけ離れた国であり、それぞれの伝統、社会的慣習、宗教的な特徴も固有のものであることは間違いありません。一見、両国の文化には、長年培われた独自の世界観と豊かな多様性に根ざした、深く複雑な文化が存在する、という事柄以上の共通点はほとんどないように見えるかもしれませんが、ひとたび表面的な要素を取り除けば、より多くの共通点、類似点、そして新たな交流の余地が見つかるのです。他国を深く理解しようとする人々は、互いを呼び寄せる不思議な感覚や、さらなる理解を求める深い共感を求める感情が根底にあることに気づきます。このような経験は日本人とメキシコ人の双方に起こり、そこから友情が芽生え、冒険の呼び声が起こるのです。
このような両文化間の相互魅了が起こった、という記録はすでに歴史に残されていますが、反面、学術的な研究は少なく、これまであまり体系化されていませんでした。そのことが原因で、学術の専門領域の範疇外では、ステレオタイプに基づく表現が再生産されたり、誤解や情報不足に基づくエキゾチシズムが蔓延するという問題が生じています。そのような理解の不足を改善するためには、広範で十分なヴィジョンを持つ方法論を創り出し、両国間のより洗練された理解を促進し、議論を刺激し、そして課題の続行を後押しするための理論的なコーパスを生み出す必要があります。
以上の経緯を受けて、日墨芸術文化常設研究セミナーは、「メキシコの中にある日本の要素とは何か。」「日本の中にあるメキシコの要素とは何か。」そして「両者が交わる点」を問うための無数の視点に焦点を当てた集団的思考による分析を、広範囲かつ双方向的に行っています。このような活動の結果として、これまで本セミナーは出版物、カンファレンス、ワークショップ、学術交流などを実現してきました。また、メキシコと日本間の活動だけにとどまらず、世界中のあらゆる地域に、知識、方法論、経験を交換する対話者を募っています。
本セミナーは、メキシコ国立芸術文学院(INBAL)の国立芸術調査・文書化・情報センター(Cenidiap)に属しています。
研究領域
- 美術史
1.1 現代メキシコ美術における日本の芸術技法の応用
1.2 宗教芸術(日本におけるキリスト教の展開)
1.3 伝統芸術
1.4 美術史の方法論
1.5 芸術制度
1.6 美的価値決定システム
- 日本伝統美術と美学
2.1 メキシコ芸術における日本文化の要素:かわいい、甘え、もののあわれなど
2.2 舞台芸術家としての舞妓と芸者
2.3 メキシコの文脈における内と外
- ジェンダー研究とフェミニズム
3.1 芸術とジェンダー
3.2 女性による文学
3.3 両国における女性の歴史的役割
- 現代文化
4.1 アニメ
4.2 メメキシコにおける日本文化製品の消費
4.3 オタク文化
4.4 デザイン
- モダニティと抵抗
5.1 脱植民地性
5.2 モダニティと反モダニティ
- 比較文学
6.1 文学カノン
6.2 児童文学
6.3 大衆文学
- 教育学と文化教育
7.1 芸術教育
- アイデンティティと移住
8.1 トランスナショナル・アイデンティティ
8.2 日本人のメキシコ移住
- 美学研究
活動の手順
本セミナーでは、各参加研究者がそれぞれ研究を進め、その結果を論文にまとめることを目標としています。セミナー期間中は、各参加者が定期的に研究の進捗状況を他の参加者に発表し、フィードバックを受け、研究内容の調整を行ったり新たなアイデアや参考文献を取り入れたりしてします。各人の知識やアプローチが生かされた、活発で的確、かつ広い視野を持った、マルチディシプリナリーな対話が展開されるプロセスが活動の軸となっています。
なお、現在本セミナーは、独自のインターディシプリナリーな方法論を作成中であり、第三期が終了する2025年に完成予定です。
原則声明
メキシコ日本芸術文化研究常設セミナー原則声明
2019年の設立以来、メキシコ日本芸術文化研究常設セミナーは、長い歴史を持つ二つの国、メキシコと日本の間の芸術的・文化的な交流という広範かつ複雑な現象に接近するために、異なる知識、方法論、世界観を組み合わせた協力的、水平的、そして尊重のある作業モデルを築くことを目指してきました。進行中のプロセスを扱い、集団作業を調整することは、定義上、絶えず自己修正し、洗練されるプロテウス的な作業です。この精神に基づき、活動開始から5年を迎えた今、セミナーはその構成原則を明確にすることが適切であると考えます。これらの原則は、私たちの集団的および個人的な行動が誠実さ、尊重、そして卓越性と独創性に対する真摯なコミットメントを持って遂行されるために、私たちを導くものです。
1.学術分野における非暴力へのコミットメント
私たちは、行動や言葉、または不平等を恒常化させ、自由な表現を阻害するシステム構造を通じて現れる、あらゆる形態の学術的暴力に明確に反対します。セミナーは、尊重と相互支援の雰囲気の中で、メンバーがアイデアを共有し、議論し、発展させることを奨励する知的成長の場です。この場は、誠実さと尊重の原則に基づく安全な空間であり、経歴、教育、年齢に関係なく、メンバーの方法や見解を受け入れます。
2.知的財産の保護
私たちは、研究テーマの一部または全部の奪取に強く反対します。セミナーの協力的な性質上、メンバーの貢献が尊重され保護されることが不可欠です。盗用、研究テーマの剥奪、またはキャリアが浅い者に対する研究の強奪は断固として拒否され、セミナーのメンバー全員に案件が提示され、協議のうえ決定され、当事者に書面で通知され次第、永久追放の処分が下されます。
3. 水平的な関係
私たちはメンバーの多様な学問的背景や経験を認識し、セミナーは本質的に水平的なものです。セッション中、従来の階層は取り払われ、平等な環境が促進されます。そこには「教師」と「学生」はおらず、ただ同僚が存在します。このアプローチは、開かれた対話を促進し、多様な視点を奨励し、集団的な理解を深めます。
4. 学問的卓越性
セミナーのメンバーは常に、徹底した資料や文献の調査、方法論の適切性についての議論、そして本セミナーが際立つ二つの主軸、メキシコと日本に関する真摯かつ厳密な作業を通じて、学問的卓越性を追求します。私たちは学問的卓越性を目指しますが、その過程で驚きを保ち続け、専門家だけでなく一般の人々のためにも知識を創造していることを常に意識します。
5. 経歴と支援
経歴の長さや意見の発信力に違いはありませんが、確立されたキャリアを持つ者は、道を歩み始めた者をサポートし、助言や経験を共有する責任を負います。さまざまなキャリア段階にいる人々の交流は、異なる視点や革新的なプロトコル、独特な体系化に近づくための豊かな方法論です。
6. 共同機関との協力
セミナーの協力的かつ集団的な性質により、日本とメキシコの芸術文化の交差点に関する研究を深めるために、他の機関と協力することに開かれています。この共同作業は、学問的な誠実さ、相互尊重、平等の原則に基づいて、最高品質の成果を達成するために行われます。
7. テキストとキュレーションプロジェクトの審査プロセス
研究の成果はすべて、プロセスの公平性と透明性、提案の質を保証するために、ダブルブラインドのピアレビューにかけられます。これらの審査結果は、覆ることのない最終的なものと見なされます。審査委員会は、セミナーの倫理的原則と学問的・芸術的経歴に基づいて選ばれます。
8. 日本およびメキシコ研究への情熱
セミナーは、メキシコおよび日本研究への深い情熱によって結ばれています。この熱意は、厳密な研究と内省的な探求を促す基盤として機能しています。メンバーの学際的な構成は、文化的アイデンティティが多層的であり、さまざまな影響や視点によって形作られるという私たちの信念を反映しています。
9. 文化的・政治的コミットメント
メキシコと日本の間のつながりや交差点を探求する中で、私たちは独自の文脈と言語的遺産に意識的に位置付けています。この取り組みは単なる学術的なものではなく、両国の文化的アイデンティティを尊重し、評価する政治的な姿勢を反映しています。これらのつながりを探求することへの私たちのコミットメントは、私たちの特定の地理的および文化的視点に基づいて、世界のより広範な理解に貢献したいという願いから成り立っています。
10. 相互信頼と公益へのコミットメント
私たちの協力の基盤は、相互信頼と公益への共有されたコミットメントに基づいていることを認識しています。この文脈での信頼は、学問的誠実さの保証を超え、各メンバーがセミナーの集団的な繁栄に対する意図、能力、献身を信頼することを含んでいます。このコミットメントは、集団の枠を超えて、尊重と誠実さに基づいた学術的協力の前例を打ち立てることを目指しています。